リクルートエージェントさんにもインテージさんにも何の恨みもないが、
調査や統計などにあまり詳しくない方が結論をミスリードしてしまうかもしれないので、
調査屋の端くれとして、以下の題材の調査の何がダメなのかを簡単に解説させてもらう。
問題の調査は、転職支援サービスを行うリクルートエージェント社が2009年10月27日に発表した、
「過去1年間に読んだビジネス書に関する調査」だ。
調査項目が入手できないため、リリースから読み取れる調査の内容は以下の通りだ。
全国の20~30代の正社員が、
1.過去1年間に読んだビジネス書が何冊なのか
2.読んだビジネス書の冊数と年収との関係
3.職場環境(異動・昇格・転職)に変化にあった人が読んだビジネス書のジャンル
問題1: 平均冊数の区分けが大雑把すぎる
リリースの最初の項目には、職種別の平均冊数がグラフになっているが、
その平均冊数の区分け(切り分け)が大雑把すぎる。
グラフを見ての通り、「0冊」「1~9冊」「10冊以上」の3つの区分しかない。
この調査が上記の3項目で行ったのか、本当はもっと細分化されていたのかわからないが、
このような調査では、以下の様なまとめ方をするのが一般的だ。
・月3冊以上 (ほぼ毎週1冊以上、年間35冊以上) ←いわゆる読書家
・月1、2冊程度 (年間10冊以上)
・2ヶ月に1冊程度 (年間5、6冊以上)
・3ヶ月に1冊程度 (年間4冊) ←ビジネスマンを対象と考えると、目標管理などで「四半期」という考え方もある。
・半年に1冊程度 (年間2、3冊)
・1年に1冊程度
・まったく読書はしない (0冊)
もっとも、調査の結果、全体で見ると52%の回答者が0冊と回答したために、
3つの区分に強引にまとめてしまったのだとは思う。
問題2: なぜビジネス書の読書数と平均年収をクロスさせてしまったのか
この調査の最大の問題はこの点だ。
この調査結果を見ると、「もしかしたらビジネス書をたくさん読んだ方が年収が上がるのではないか」「ビジネス書をたくさん読む人は平均年収が高い」というミスリードを招く恐れがある。
ビジネス書の読書冊数と平均年収に因果関係があるのかどうかはわからないが、
少なくとも、この調査からは何の因果関係も見出すことはできない。
まず、何をもって年収500万円未満と以上に区切ったのか。
まったくもって根拠が無い。
以前、このブログで「どんどん貧乏になる日本人」と題する記事を書いた。
そこで、厚生労働省が発表している国民基礎調査の結果を紹介させていただいたが、
2008年における20代(20~29歳)の平均所得額は317万円。同30代の平均所得額は546万円だ。
その差229万円。20代と30代ではまったく所得水準が異なることがわかる。
で、この調査のように年収500万円で区切ると、
20代からすれば平均を大きく上回るし、30代からすれば平均にすら届いていない。
繰り返すが、この調査は20~30代の正社員を対象とした調査だ。
親切な(というか真っ当な)リリースであれば、
まず20代○○人(平均年収○○○万円)、30代○○人(平均年収○○○万円)を明らかにしたうえで、
読書量により平均年収がどの程度違うのかを明らかにするだろう。
実際、この調査において年収500万円以上の256人は、ほとんどが30代の人ではないかと疑っている。
では、なぜ年収500万円以上の人は未満の人に比べて、年間10冊以上読む割合が高いのかは、
私の分析では以下のような仮説だ。(前提として、年収500万円以上の大半が30代だとする)
ページ下部のグラフにあるように、職場環境の変化があった人が最も多く読むジャンルは、「資格取得」だ。
ここがキーワードだと私は思っている。
30代になれば、
・結婚をしマイホームの購入を検討するにあたって、会社が資格手当などを支給してくれるから、
住宅ローンの返済を楽にするために資格取得に勤しむ。
・会社の昇格要件が「TOEICスコア500以上」のような基準を設けている。
・転職をするにあたって、少しでも条件がよくなるように資格取得をする。
などライフスタイルの変化に伴い、収入増に迫られたとき資格の取得は最も手っ取り早い方法だ。
だから、年収500万円以上の人(30代)の人が10冊以上、ビジネス書を読んでいるという結果になるのだと思う。
問題3: そもそもビジネス書って何だ?
見逃してしまいがちだが、この問題も大きい。
「ビジネス書」は非常に定義が曖昧で、読んだ人がビジネス書だと言えばビジネス書になる。
逆に、本人がビジネス書でないと思えば、それはビジネス書ではない。
例えば、営業職の人が、こうして私は世界No.2セールスウーマンになったを読んだら、
十中八九「ビジネス書を読んだ」と回答すると思われる。
しかし、機械のエンジニアが、初心者のための機械製図 (第2版)を読んだら、
おそらくビジネス書を読んだとは考えないのではないかと思われる。
それは「専門書」や「技術書」という位置付けであり、このアンケートのビジネス書のジャンルに含まれないからだ。
同様のことが、ITエンジニアにも言える。
トム・デマルコのピープルウエアを読んだら、ビジネス書と言うかもしれないが、
演習と実例で学ぶ プロジェクトマネジメント入門を読んだら、ビジネス書ではなく専門書・技術書と言うかもしれない。
サーバ負荷分散技術はどうだろうか。
逆に、人事職の人が、
輝く組織の条件を読んだら、ビジネス書を読んだと回答するだろうし、
賃金の法律知識を読んでも、ビジネス書を読んだと回答するだろう。
例え、賃金の法律知識が、エンジニアでいえば初心者のための機械製図やプロジェクトマネジメント入門に位置するような、
専門書・技術書といわれるようなものであったとしてもだ。
つまり、この調査における「ビジネス書」は、
営業、人事・労務・総務・法務、企画職(広宣・販促・マーケ)の平均冊数が多くなるようになってしまうという問題を内包している。
だから、この問題を回避するには、
・技術書や(その職種の)専門書
・業界紙やビジネス雑誌(専門誌)
というジャンルを入れるべきではないかと考えられる。
逆に、
・自己啓発
・ビジネス人物伝
・資格取得
の3つのジャンルにスパッとそぎ落としてしまうという手法も有効だ。
それでも、「自己啓発」の位置付けは非常に危ういが。
まとめ(っていうか愚痴)
インテージさんは、歴史ある市場調査の大手で、非常に優れた調査を行う。
一方、リクルートエージェントさんも転職支援市場においては、優れた会社だ。
その2つが合わさったときに、あってはならない化学反応を起こしてしまったと思う。
調査をやっちゃった以上は、発表しないといけないという義務感もあったのだろうけど、いくらなんでもこれはまずい。
関連記事:
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- 住んでみたい街アンケートと2つのリリース - 2009年10月6日
- どんどん貧乏になる日本人(貧困じゃないよ) - 2009年10月5日
問題3はおれも常々疑問に思ってるよ。
返信削除「ビジネス書 = 自分の仕事の糧になるもの」
ということなのかなぁと漠然と思ってるけど、それだとこち亀とかもその範囲に入るしなぁw
というか
「知恵/知識のまとめ」で括れば、別に本じゃなくても新聞やテレビ、
果ては(裏づけされた)ネットの書き込みなんかも範疇になるんじゃない?!
特に先端的なIT技術はまず本じゃなくてネットで議論されるのが常なんだがね。英語だけど…。
※話拡散しまくったなぁ。すまん。
美人とネス湖の関係について書いてある本じゃないの?
返信削除AとBにおいてAが良い結果を出してるからAって良いぜ!
ってことだよね。世の中ABだけじゃないけど、範囲を限定させ、その中だったらこうですっていわゆる「マジシャンズチョイス」と似た感があるな。
突然だけど、次の八単語の中から、ひとつを自由に選んでみて
消費税・収穫・葬式・アルミ・筆・お箸・数珠・半紙
次にその単語と関係あると思うものを、次の八単語から選んで
体育館・一円玉・グラタン・米・牛乳パック・墨汁・砂漠・喪服
選んだものの特徴を、次の八つの中から選んで
赤い・長い・小さい・明るい・広い・黒い・鋭い・速い
それでは最後に、その特徴に当てはまるものを次の八つの中から選んでみよう
シマウマ・錦鯉・ヒマワリ・アリ・イルカ・柴犬・モミの木・カマキリ
あなたが選んだのは↓
アリだね?