2009年12月5日土曜日

「トヨタ流」と虎の威を借るなんとやら

うちの会社では、日経情報ストラテジーという雑誌を定期購読している。
誌面の後半には、「10分間で学べる業務革新講座」というコーナーがあり、
著名なコンサルタントの方々が、様々なテーマについて連載コラムの執筆しており、大変勉強になる。

そこで2年間にわたり長期連載をしていたのが、
著書「なぜ会社は変われないのか」「なぜ社員はやる気をなくしているのか」で有名な、
スコラ・コンサルトの柴田昌治氏による”日本的経営改革の極意 「トヨタ流」の取り込み方”だ。

2010年1月号の同誌では、このコラム全24回分が特別付録となっていた。
氏が同コラムを連載していたのは2008年1月~2009年12月までのちょうど2年間。
この間、世界の経済情勢は目まぐるしく変化したが、
その間の氏の各回での「前置き」のような部分が、なかなか味わい深いので、勝手ながら紹介させていただく。

私自身は柴田氏の考え方はとても素晴らしいものだと思うし、尊敬に近い念を持っている。
しかし、一度その人についたイメージや、その人が何を良しとしているのかを高らかに触れ回ると、
思わぬしっぺ返しが来てしまうという好例として、紹介するものだ。

長文になるが、是非是非読んでもらいたい。

第1回(2008年1月号)
自分の会社もトヨタ自動車のように儲かる企業になれればいいのにと、企業経営者なら誰しもがそう願うことだろう。そうした経営者の中には、「あれだけ儲かるなら、もうそれ以上は何も言うことはない」と、ただ単にその儲かるという結果だけを欲しがる人もいるだろうし、「原因があるからこそ結果もある」と、儲かり続けるという結果をもたらす原因にまでさかのぼって、その答えを見つけようとする人もいるはずだ。
(中略)
言うまでもなく、トヨタ流が当たり前のように社員に実行されている会社は強い企業である。では、トヨタ流を実行するためには何でもいいからトヨタのまねをすればいいのかといえば、そうでもない。事はそれほど簡単ではない。いくらトヨタ流を頭で理解したとはいっても、それをすぐに実行できる人はまずいない。頭で理解できても運動神経が働いていないと、実行は出来ないのだ。



第2回(2008年2月号)
問題解決のサイクルがあらゆるところで回り続けているトヨタ自動車のような企業風土・体質を、自らの会社にも定着させたいと本気で思うなら、「これさえあれば劇的な効果が期待できる」といった簡便で都合のいいツールや処方箋など、どこにも存在しないことを早く認識したほうがいい。



第6回(2008年6月号)
世の中には、トヨタグループの出身者を経営のトップに迎えれば、トヨタを再現したような経営が自社でも実現できるのではないかと考える謝った期待が横行している。
(中略)
そうは言っても、トヨタの社員が総じて「深く考えて仕事をする力」と「ネットワーク力」、つまり、課題に対する強い対応力を持っていることは確かである(しかし、トヨタにもいろいろなタイプの人がいる。中には部下から考える力を奪ってしまう強圧的なトップダウンの上司がいるのも事実だ。トヨタで働く人なら誰もが、必ずしも私のいう「トヨタ的な人間」ではない。)



第12回(2008年12月号)
 私は自身の講演の中で、トヨタ自動車を例に出して説明をすることがよくある。例えば、事実を大切にする現場主義が骨の髄までしみ込んでいる代表的な会社はトヨタであるとか、社員同士が緊密な人間関係を持っていることが「あいまいな情報」を共有させ、それが仕事の全体像の共有につながっているのがトヨタであるとか、その結果として問題解決のサイクルが常に回り続けている会社がトヨタであるというような話だ。
 トヨタという会社は、私はいい意味で日本の典型的な会社だと認識しているのだから、このように例に出すことはごく当たり前のことである。
 ところが最近、連続して何回かの講演で、こうした私の言い分に会場の聴衆から反論が出た。彼ら曰く、「トヨタは柴田さんが言うほどに、そんなに良い会社なのですか。社内には自殺者も多いとも聞いているし、云々」というような中身である。自殺がどれくらいの数あるのか、私は知らない。しかし、あれだけの規模の会社だから、トヨタにも当然、自殺は起こるのだろう
 私は一度もトヨタを全面的に肯定するなどと言ったことがないと思うのだが、どうしても見習うべき例としてトヨタを取り上げることが多いから、私が全面的にトヨタを礼賛しているかのように受けとられてしまうらしい。



第15回(2009年3月号)
 トヨタ自動車が2009年3月期の赤字決算予想を発表した。前期までの好調振りとは打って変わった内容である。状況の悪い時には変に隠し立てなどせず、そのままをさらけ出すというトヨタらしい姿勢がかえって景気後退を加速しているとも言えなくはないのが皮肉である。



第16回(2009年4月号)
トヨタ自動車が続けざまに業績を下方修正した。今回の金融大不況がトヨタに与えている影響は、大方の人が当初思っていたよりも、はるかに大きいようだ。トヨタはここ数年間、壮絶なほど兵たんの拡大を志向してきた。その「つけ」が、一気に噴出したということなのだろう。
(中略)
しかし、トヨタが目指してきた拡大戦略の持つ意味は、未開拓の世界市場を押さえるということ以外には、いま一つ見えてこなかったのは、私だけだろうか。そういう意味では、物事の意味を常に問うトヨタ本来の姿からすると、どこか違和感があるというのが本当のところだ。



第21回(2009年9月号)
(前略)
現実のトヨタは今、2期連続の赤字に陥っている。確かに、グローバルに延び切った戦線のあまりにも急激な拡大と固定費の増大を危ぶむ声は、トヨタに近い人からも頻繁に聞こえてきていた。
問題は、赤字に陥る前に問題の顕在化がなぜできなかったのかということだろう。実際の仕事の現場では、そうしたことの予兆は明らかに見えていたと思われるからである。

来年は寅年。
うちの会社は虎の威を借る何とやらにならないよう、気をつけないとなぁと思う。

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